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東京地方裁判所 昭和33年(ヨ)4022号 判決 1960年7月29日

申請人 坂田茂 外二名

被申請人 日本鋼管株式会社

主文

申請人高野保太郎、同菅野勝之がいずれも被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。申請人坂田茂の本件申請を却下する。

申請費用は、申請人坂田茂と被申請人との間においては被申請人に生じた分を三分し、その一を申請人坂田茂の、その余を各自の負担とし、申請人高野保太郎、同菅野勝之と被申請人との間においては被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人ら代理人は、「申請人らがいずれも被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。」との裁判を求め、その申請の理由、ならびに被申請人の主張に対する反論として、次のとおり述べた。

被申請人は、肩書地に本店を、川崎市内に川崎製鉄所を、その他の各地にも事業所を置いて、各種鋼材の製造販売業を営んでいる株式会社である。申請人坂田は昭和二四年六月一四日に、同高野は昭和二三年八月一七日に、同菅野は昭和二六年四月二日にそれぞれ工員として被申請人にやとわれ、いずれも被申請人の川崎製鉄所およびその附近の事業所の従業員約一三、七〇〇名で組織する日本鋼管川崎製鉄所労働組合(以下組合という。)の組合員である。

被申請人は申請人らに対し、いずれも昭和三三年二月二一日に口頭で、同月二六日附をもつて申請人坂田、同高野を懲戒解雇、同菅野を諭旨解雇(被申請人の従業員に対する懲戒の一種)する旨の意思表示をした。その理由とするところは、申請人らが、昭和三二年七月八日、在日アメリカ合衆国空軍の使用する東京都北多摩郡砂川町所在立川飛行場の測量反対集会に参加した際、入ることを禁じられた場所に侵入したため、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法(以下刑事特別法と略称する。)第二条違反として、同年九月二二日検挙され、同年一〇月二日起訴され、しかもこれらの事実が新聞、ラジオ、テレビなどで全国的に報道されたことが、被申請人と組合との間に結ばれている労働協約の第三八条第一一号、および被申請人の就業規則の第九七条第一一号に被申請人の従業員に対する懲戒解雇または諭旨解雇の事由の一としてかかげられている「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき。」に該当するというにある。

しかしながら、申請人らに対する右懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示は、次のような理由により無効である。

一、申請人らには、被申請人の挙げるような懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の事由に該当する行為はない。すなわち、

(一)、申請人らは刑事特別法第二条に違反する犯罪の嫌疑にもとずいて逮捕され、起訴されたのであるけれども、そもそも刑事特別法第二条は、次のような理由によつて無効であるから、右逮捕、および起訴の理由とされた申請人らの行為はなんら違法なものではない。

イ、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定は、日本国憲法(以下憲法と略称する。)にいわゆる条約であるが、それを締結するにあたつて国会の承認を経ていないから、憲法第六一条、第七三条第三号に違反する無効のものであり、したがつてその施行を確保するための刑事特別法もまた無効である。

ロ、右安全保障条約は、戦力を日本国内に保持し、国の交戦権を外国に委任代行させることを内容とする条約であるから、憲法第九条に違反し無効であり、したがつてかかる条約の目的遂行のためにする前記行政協定、および刑事特別法もまた無効である。

ハ、刑事特別法第二条にいう「施設又は区域」については、これを国民に周知させる方法が法的にも保障されておらず、また実際にもとられていないので、同条は、いわゆる白地刑法の白地部分の補充を欠くものとして、憲法第三一条、第三九条により認められている罪刑法定主義に反する無効のものである。

(二)、被申請人が申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の理由とした申請人らの行為(以下申請人らの本件行為という。)は、なんら現行法秩序に違反するものでもない。なぜならば、

イ、申請人らが立入つたといわれる場所は国がかねて賃貸借契約によつて米軍の使用に供していた民有地であるが、その賃貸借契約は、すでに昭和三一年三月限り終了していたのであるから、ここへの立入を禁ずる権利は米軍にも国にもなかつたのである。したがつて申請人らがその場所へ立入つたとしても刑事特別法第二条違反の刑責を問われるいわれはない。

ロ、申請人らの本件行為は、国が違法に強行しようとする測量に反対してその中止を要請するため、憲法第一六条の保障する請願権および憲法第二一条にもとずく表現の自由の行使として、最少限度必要な範囲内で行われたにすぎないのであるから、正当な理由があるものとしてなんら違法な行為ではない。

(三)、申請人らの本件行為は、一般的に言つても、被申請人の援用した懲戒規定の適用上から見ても、「不名誉な行為」というにはあたらない。

イ、申請人らの本件行為は、たとえ犯罪を構成するものであるとしても、政治的な犯罪であつて、それが不名誉なものと評価されるかどうかは、見る人の立場の相違にかかるものであつて、しかく一義的に不名誉なものと断定されるべき性質のものではない。ことに日本国内の米軍基地の維持拡張に反対することは、むしろ憲法に定められた平和主義の原則を守るために国民に課せられた義務であつて、なんら不名誉なことではないという見解が国民の間に広く存在し、現に、本件行為によつて起訴された申請人らに対する刑事特別法違反被告事件につき、昭和三四年三月三〇日東京地方裁判所刑事第一三部において、申請人らの行為は罪とならないとの理由により申請人ら全員に対し無罪の判決が言渡されたことにかんがみるときは、申請人らの本件行為をたやすく「不名誉な行為」と言切つてしまうことはできないのである。

ロ、もともと使用者がその雇傭する従業員に対して行う懲戒は、職場秩序の維持に必要な限度においてのみ許されるべきものであるから、労働協約や就業規則中における懲戒事由に関する規定も、このような懲戒の目的にしたがつて解釈されなければならないのである。したがつて申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇について適用された前掲労働協約、および就業規則の各規定にいわゆる「不名誉な行為」も、職場秩序を乱すような不名誉な行為のみを意味するものと解釈すべきであつて、この解釈は、昭和三一年八月に被申請人と組合との間で前記労働協約が結ばれるにあたり、その第三八条第一一号が適用される場合を、当該行為が(イ)、会社に対し名誉毀損を構成するとき、(ロ)、会社に対し民事上の損害を与えたとき、または(ハ)、会社に対し信用を損つたとき、に限ることに、被申請人と組合との意見が一致していたことからも十分に裏付けられるところである。ところが申請人らの本件行為は、職場外で行われた職務外の行為であつて、職場秩序とは全く関係のないものであるから、前記規定にいわゆる「不名誉な行為」として懲戒事由にあたるべき性質のものではないのである。

(四)、申請人らが本件行為のため逮捕、起訴され、かつそのことが世間に報道されたからといつて、そのことによつて、「会社の体面を汚した」ものとはいえない。すなわち、

イ、前に述べたように申請人らの本件行為はなんら違法ではないのであるから、申請人らを逮捕、起訴したこと自体がそもそも違法不当なのである。むしろ申請人らが逮捕され、起訴されたことによつて、もし被申請人の体面が汚されたことがあるとすれば、警察、および検察当局の違法不当な逮捕、起訴にこそその原因があるものといわざるをえないのである。

ロ、のみならず企業の経営者は従業員の全人格を支配するわけではないから、申請人らの本件行為のように、企業の従業員が職場外、職務外において、しかも労働組合の組合員として行つた行為は、かりにそれが不名誉なものであるとしても、それによつて体面を汚されるのは、せいぜい本人、またはその所属する労働組合にすぎず、かような行為のために当該本人の雇傭主やその経営にかかる企業の体面が汚されるなどということは本来考えられないところである。申請人らの本件行為によつて被申請人の体面が汚されたというのは強弁もはなはだしいといわなければならない。

このように、被申請人の申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示は、前記労働協約および就業規則の懲戒事由に関する規定の適用を誤つたものであつて、無効であるといわなければならない。

二、かりに申請人らの本件行為が被申請人の主張する懲戒事由にあたるとしても、この程度の理由で申請人らを解雇することは懲戒処分としてあまりにも重きにすぎるといわなければならない。前にも述べたところであるが、申請人らの本件行為をもつて、平和憲法を守るための当然の手段であつて不名誉というには値しないという見解が国民の間に広く存在しているばかりでなく、行政上の取締法規にすぎない刑事特別法に違反する行為は必ずしも反道徳的なものと言いきることはできないし、しかも申請人らの本件行為はいわゆる大衆運動の中で起つたもので、それもただ米軍基地に入つたというだけで暴力などを伴つたわけでもなく、平常時に職場で行われるようなおそれのないものであるから、職場秩序を乱すとか、従業員としての適格性を失わせるとかいうべき性質のものではないのである。したがつて申請人らがかりに本件行為によつて被申請人から懲戒を受けなければならないものであるとしても、その情状が十分に斟酌されてしかるべきであるのに、被申請人は、申請人らに対しあえて解雇という処分に出たのであつて、解雇権を濫用する以外の何ものでもなく、被申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示はこの点からしてもやはり無効であるといわなければならない。

なお、被申請人が申請人坂田、同高野に対し予備的にした諭旨解雇の意思表示もまた右に述べたと同様の理由により無効であるというべきである。

ところが被申請人は、昭和三三年二月二七日以降、被申請人と申請人らとの間の雇傭契約が懲戒解雇、ないしは諭旨解雇により消滅したものとして、申請人らをその従業員として取扱わず、もとより申請人らに対し給料の支払もしない。申請人らは、いずれも被申請人から支払を受ける給料を唯一の生活手段としていたところ、被申請人から右のような処置をとられたため、生活に困窮しているのみならず、社会的にも精神的にも多大の損害を蒙つている。ところで申請人らは被申請人に対し、雇傭関係の存在することの確認を求めるための本案訴訟をおこすことにしているが、その判決が確定するまでとても待つことができない窮状にあるので、それまでの間、仮処分により被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定めてもらう必要がある。

被申請人の主張する事実のうち、申請人らがその所属する労働組合の組合員数名とともに「砂川基地測量反対集会」に参加するため、申請人坂田を責任者として昭和三二年七月八日の朝砂川町に相前後して赴き、すでに立川飛行場北側に集合していた右反対集会の群衆の中に加わつたこと、その際申請人坂田、同高野とほか二名の組合員が携行したヘルメツト型帽子をかぶり、申請人菅野を含む他の組合員が赤鉢巻をしたこと、右反対集会に参加した申請人らを含む被申請人の従業員九名が同年九月二二日に逮捕され、そのうち申請人らが同年一〇月二日に起訴されたこと、その事実が別紙新聞記事一覧表のとおり新聞紙上に報道され、またテレビ、ラジオなどで放送されたこと、被申請人から組合に対し、被申請人主張のように申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の処分案につき通知、および説明がなされ、意見が求められ、組合の反対意見にもかかわらず、被申請人が原案どおり申請人らに対し懲戒処分を行う旨、昭和三三年二月二〇日組合に通告した上、申請人らに対し被申請人主張のような解雇の意思表示をしたこと、申請人坂田がかねて組合の執行委員として組合業務に専従し、被申請人から懲戒解雇の意思表示を受けた後も、毎月組合から、同人が被申請人より支払を受けるべき給料相当額の金員のほかに、執行委員としての活動費(ただし、被申請人の言うような執行委員手当ではない。)として金四千円を支給されていること、申請人高野、同菅野が被申請人から懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示を受けた後、毎月組合から、組合の犠牲者救援規程により被申請人の主張するような金員を支給されていることは、いずれもこれを認めるが、その余の事実はすべて否認する。

組合の専従役員の地位も、組合の犠牲者救援規程にもとずく金員の支給もともにきわめて不安定なものであるばかりでなく、労働者が不当に使用者から解雇者として取扱われることにより蒙る損害は、単に経済的なもののみに止らないのであるから、申請人らが組合から前述のような金員の支給を受けているからといつて、ただちに仮処分の必要がないとはいえない。

申請人ら代理人は、以上のとおり述べた。(疎明省略)

被申請人代理人は、「本件申請を却下する。申請費用は、申請人らの負担とする。」との裁判を求め、次のとおり答弁した。

被申請人が肩書地に本店を、川崎市内に川崎製鉄所を、その他の各地にも事業所を置いて、各種鋼材の製造販売業を営んでいる株式会社であること、申請人坂田が昭和二四年六月一四日に、同高野が昭和二三年八月一七日に、同菅野が昭和二六年四月二日に、それぞれ工員として被申請人にやとわれ、いずれも組合の組合員であること、被申請人が申請人らに対し、いずれも昭和三三年二月二一日に口頭で、同月二六日附をもつて、申請人らの主張するような理由により申請人坂田、同高野を懲戒解雇、同菅野を諭旨解雇(被申請人の従業員に対する懲戒の一種に属するが、懲戒解雇と異なる点は任意退職の場合と同額の退職金を支給するし、第三者に対する関係において懲戒の取扱をしないことにある。)する旨の意思表示をしたこと、および申請人ら主張の労働協約第三八条第一一号と就業規則第九七条第一一号に、申請人ら主張のような規定があることは、いずれもこれを認める。

被申請人が申請人らを懲戒解雇、ないしは諭旨解雇した理由、およびその経過の詳細は、次のとおりである。

昭和三二年七月八日の朝から、在日アメリカ合衆国空軍の使用する東京都北多摩郡砂川町所在の立川飛行場を拡張するための測量が警官隊の援護のもとに始められようとしたところ、これを阻止するための「砂川基地測量反対集会」に参加していた地元民、およびこれを支援する労働組合員学生達との間に衝突がおこつた。申請人ら、および被申請人の従業員で申請人らの所属する組合の組合員数名は、申請人坂田を責任者として右集会に参加するため、同日朝、相前後して砂川町に向つたのであるが、もとより右測量反対闘争により不祥事態の発生しかねないことを十分に予知していたばかりか、出発当時すでに現地において警官隊と測量に反対する人達との間にもみ合いが始まつているという情報も得ていたのであつた。そうして現場に到着すると、申請人坂田、同高野とほか二名の組合員は携行したヘルメツト型帽子をかぶり、申請人菅野を含む他の組合員は赤鉢巻をしめた上、その頃すでに立川飛行場の北側境界柵外に集合していた「砂川基地測量反対集会」の群衆の中に加わつた。この集会に参加した者はいずれも、米軍が飛行場として使用中であることを明確にするため境界柵をもつて囲んである基地内で行われる当日の測量を阻止するためには、その境界柵を破つて警官隊による測量援護を実力で妨害せざるをえないことを、現場の情勢から当然知つていたにもかかわらず、申請人らを含む反対集会の参加者約二五〇名は、測量阻止の目的をもつて、飛行場滑走路の北端附近から、米軍の使用する区域として入ることを禁じられた基地内に侵入し、申請人らは、申請人坂田の指揮の下に最前列に陣取り、率先して気勢をあげ、警官隊が侵入を防ぐため設置していた移動バリケードをはさんで警官隊とにらみ合い、これに反抗し、バリケードを踏みつけるなどの行動に出たのである。

右のような行動に及んだ申請人らを含む被申請人の従業員九名は同年九月二二日に逮捕され、そのうち申請人らは同年一〇月二日刑事特別法第二条違反の罪名で起訴されたのであるが、その事実は別紙新聞記事一覧表のとおり新聞紙上に報道され、またテレビ、ラジオなどで放送されたのである。しかも当日右基地に侵入した約二五〇名中、逮捕された者は二五名で、そのうち九名が被申請人の従業員であり、その中で起訴されたのはとくに悪質なものとみられた七名であつたところ、申請人らはその中に入れられたのである。

被申請人の従業員である申請人らがこのように刑罰法規に触れたとして逮捕され、起訴されたことが広く社会に報道されたことにより、基幹産業の一つである鉄鋼業界においてわが国有数の経営規模をもつている被申請人は、対外的にも信用をおとし、その事業の健全円満な運営をさまたげられ、とうてい忍ぶことのできない程度にまで体面を汚されたのであるが、調査の結果、申請人らに前記報道にかかるような事実のあつたことが確認されたので、申請人らの日頃の勤務状況、申請人らの本件行為が悪質な計画的なものであること、その他いろいろな情状を考え合わせ、申請人ら主張の懲戒規定を適用して、申請人坂田、同高野を懲戒解雇、同菅野を諭旨解雇すべきであると考え、組合員である従業員に対する懲戒の手続に関する被申請人と組合との間の労働協約、およびその運用についての両者間の了解事項にもとずいて、昭和三三年一月一七日組合にその旨通知し、その後同年一月二一日から同年二月二〇日までの間に七回にわたり、申請人らに対する懲戒につき詳細な説明を行つて組合の意見を聞いたのである。組合の意見は申請人らの懲戒に反対であつたけれども、被申請人としては組合の意見にしたがう理由がなかつたところから、同年二月二〇日組合に対し、同月二六日附で申請人らを、被申請人の立てた原案どおりに懲戒することにする旨通告するとともに、翌二一日申請人らに対して、それぞれ前に述べたように懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示をしたのである。

被申請人らに対する懲戒につき適用した前記規定にいわゆる「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」とは、申請人らの主張するように職場秩序と直接関係のない職務外の従業員の行為と全然無縁なものではないのであつて、申請人らに対する懲戒の事由とされた申請人らの本件行為はまさにこの場合にあたるものと見るべきである。

このように被申請人の申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示は、いずれも労働協約、および就業規則の各該当規定を正当に適用してなされた有効なものであるから、申請人らは昭和三三年二月二六日限り被申請人の従業員たる地位を失つたといわなければならない。

なお、被申請人は、申請人坂田、同高野に対する右懲戒解雇が万一懲戒処分として重きにすぎるとの理由により無効とされる場合を考え、申請人ら代理人の出頭していた昭和三三年七月一八日の本件口頭弁論期日において、右両名を諭旨解雇する旨の予備的な意思表示をした。したがつて右両名については、おそくとも同日限り被申請人との雇傭関係が消滅したのである。

かりに被申請人が申請人らに対してなした懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示が無効であると解されるとしても、申請人らには、本件のような仮処分を求める必要性がないというべきである。

申請人坂田は、被申請人から懲戒解雇の意思表示を受ける以前より引きつづき組合の執行委員として組合業務に専従し、被申請人より支払われるべき毎月の給与相当額の金員のほかに、執行委員手当として一カ月金四千円の支払を組合から受けているのであるから、解雇を理由に被申請人より従業員としての処遇を停止されたことによつて経済上の打撃は少しも蒙つておらず、かつ、その組合活動は、従前どおりなんらの妨害もなく続けられているのである。また申請人高野、同菅野は、被申請人から懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示を受けてから以後、組合の仕事を手伝い、解雇の効力について係争中は組合の犠牲者救援規程により毎月組合から、解雇前三カ月間の賃金の一カ月平均額に相当する金員の支払を受けて従来どおりの生活を営んでいるのみならず、組合から申出があれば、組合活動のため従前勤務していた事業所に出入することを被申請人によつてとくに許されているのである。

このようなわけであるから、本案訴訟の判決の確定前に、申請人らが被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮処分によつて定めて置かなければならないほどの差し迫つた事情は全くないものといわなければならない。

被申請人代理人は、以上のとおり述べた。(疎明省略)

理由

被申請人が肩書地に本店を、川崎市内に川崎製鉄所を、その他の各地にも事業所を置いて、各種鋼材の製造販売業を営んでいる株式会社であること、申請人坂田が昭和二四年六月一四日から、同高野が昭和二三年八月一七日から、同菅野が昭和二六年四月二日から、それぞれ工員として被申請人にやとわれていたこと、被申請人が申請人らに対し、いずれも昭和三三年二月二一日に口頭で、同月二六日附をもつて、申請人らの主張するような理由により申請人坂田、同高野を懲戒解雇、同菅野を諭旨解雇(被申請人の従業員に対する懲戒の一種)する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで申請人らが在日アメリカ合衆国空軍の使用する東京都北多摩郡砂川町所在の立川飛行場を拡張するための測量を阻止しようとする目的をもつて、昭和三二年七月八日の朝から現地において開催された「砂川基地測量反対集会」に、申請人らの所属する労働組合の組合員数名とともに参加すべく、申請人坂田を責任者として砂川町に相前後して赴き、すでに飛行場の北側に集合していた右反対集会の群衆の中に、申請人坂田、同高野とほか二名の組合員とは携行したヘルメツト型帽子をかぶり、申請人菅野と残りの組合員とは赤鉢巻をして加わつたこと、右反対集会に参加した申請人らを含む被申請人の従業員九名が同年九月二二日逮捕され、そのうち申請人らが同年一〇月二日起訴されたこと、およびその事実が別紙新聞記事一覧表のとおり新聞紙上に報道され、またテレビ、ラジオなどで放送されたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一三号証によると、前記のとおり起訴された申請人らほか四名に対する刑事特別法違反被告事件につき、東京地方裁判所刑事第一三部が昭和三四年三月三〇日言い渡した判決において、同事件の被告人らは共同して昭和三二年七月八日午前一〇時三、四〇分頃から午前一一時頃までの間に正当な理由がないのに、アメリカ合衆国軍隊の使用する区域であつて入ることを禁じた場所である東京都北多摩郡砂川町所在立川飛行場内に深さ約四、五メートルに亘つて立入つたものであるとの、刑事特別法第二条に該当する事実が証拠により認定された(もつとも右判決では、刑事特別法第二条が憲法に違背して無効であるとの理由により被告人らに対して無罪が言い渡された。)ことが認められ、叙上各事実に、証人西原弘之の証言(昭和三三年一〇月一七日、および同年一一月二六日の各口頭弁論期日における尋問分)とこれにより真正にできたものと認める乙第九号証、証人川島曾雄の証言とこれにより真正にできたものと認める乙第一〇号証の一、証人白松爾郎の証言とこれにより真正にできたものと認める乙第一〇号証の二、ならびに証人五十部賢次郎の証言とこれにより真正にできたものと認める乙第一〇号証の三を総合するときは、申請人らが前記のとおり「砂川基地測量反対集会」に参加した際に、刑事特別法第二条所定の要件に該当する行為が申請人らによつて行われたことが認められる。

してみると被申請人が申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の理由の契機とした申請人らの行為は実在したものというべきである。

さて申請人らは、被申請人の申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇が無効であるとして、種々その理由を主張するのであるが、そのうちまず申請人らの本件行為が申請人らに対する右解雇につき適用された被申請人主張の労働協約、および就業規則の各規定にいわゆる被申請人の従業員が「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」に該当しないとの主張の当否について判断する。

(一)、真正にできたことに争いがない甲第二号証、証人斉木一郎の証言により申請人ら主張のような文書として真正にできたものと認める甲第五号証、同証人の証言により真正にできたものと認める甲第六号証、同第八号証の一、二、および証人斉木一郎、同萩原輝美(後記採用しない部分を除く。)の各証言によると、次の事実が認められる。

被申請人が申請人らを懲戒解雇、ないしは諭旨解雇するについて適用した労働協約(昭和三一年一一月一五日締結され、同日から一ケ年を有効期間と定められた。)第三八条第一一号の規定は従前の労働協約にあつたものがそのまま引きつがれたのであるが、それについては左のようないきさつがあつた。組合は、被申請人のような大企業において、一介の従業員の行為によつて被申請人の体面が汚されるなどということはそもそも想像しえられないのみならず、問題の規定の文言がきわめて抽象的包括的で多分に濫用のおそれがあるとして、かねて被申請人に対してこのような規定の削除を要求していたのであるが、労働協約の有効期間の満了を控えて新しい労働協約(申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇について適用された労働協約の発効前まで効力を有していた労働協約)を結ぶについて交渉が進められるにあたり、昭和三〇年四月一三日被申請人に対し、右のような懲戒事由に関する規定を新しい労働協約に存置しないようにとの申入れをした。そうして同年五月下旬から八月の上旬にかけて被申請人と組合との間でたびたび行われた交渉において、その点について両者の折衝が続けられた。けれども被申請人は、組合の要求する規定の削除には応じ難いとの態度を堅持して譲らなかつたところ、たまたま同年八月始め来訪した世界銀行の使節団一行に組合員が石を投げつけるという事件が発生し、被申請人の期待していた世界銀行からの資金借入れが失敗に終つたことがあり、被申請人は、このような事例こそ正に前示懲戒事由にあたる典型的な場合であると主張し、組合もこれを承認せざるをえなかつたところから、組合は、一歩を譲つて、当該規定の内容をより具体的な文言で表現するか、あるいはその適用の基準を、(1)、会社に対して名誉毀損を構成するとき、(2)、会社に対して民事上の損害を加えたとき、(3)、会社に対して信用を損つたとき、に限り、とくに従業員の組合活動についてこれを濫用しないこと、および右(3)、にいわゆる「信用」の解釈適用について、被申請人は組合と協議するということが被申請人によつて約束されるならば、この条項をそのまま新しい労働協約に残してもよい、との提案をするに至つた。これに対し被申請人は規定の表現については従前の文言をそのまま踏襲して、組合の挙示するような場合をこれが適用の典型的な基準とすることに異論はないけれども、前記(3)、にいわゆる「信用」の解釈適用は被申請人の従業員に対する人事権の行使に関する事項であつて、これについて一々組合と協議することは望ましくないとして反対し、更に折衝の結果、けつきよくその点については被申請人が組合と十分な話合いをつくすということで相互に了解がついた。このようないきさつを経て、同年八月一二日に結ばれた労働協約の中にも前の労働協約に存した前述のような懲戒事由に関する規定が第三八条第一一号として残されることになつたのであるが、右のような被申請人、組合相互間の了解事項は、右規定の運用に関する注として双方の口頭による確認に止めることとされたのである。そうして右第三八条第一一号の規定は、右労働協約の失効に伴つて結ばれ、申請人らに対する本件懲戒解雇、ないしは諭旨解雇につき適用された労働協約にもとくに論議されることなくそのまま引きつがれたのである。

前掲証拠中この認定に反するものは採用しない。

(二)、証人斉木一郎の証言により、被申請人が申請人らに対し懲戒解雇、ないし諭旨解雇の意思表示をした当時効力を有していた労働協約の直前の労働協約を印刷に附したものであると認められる前掲甲第二号証によると、同協約の第三八条においては、前示第一一号所定の事由以外に、被申請人の従業員に対する懲戒解雇または諭旨解雇の事由が第一号から第一〇号まで列挙されていることが認められるのであるが、これら懲戒事由のうち、第一一号にかかげる以外のものは、いずれも被申請人の従業員による企業経営秩序の侵害または企業の生産性に対する不寄与その他労使関係における信義則違反とみられる非行のみである。しかも使用者の労働者に対する懲戒は、元来企業経営における秩序の維持、および企業の生産性の高揚という目的に即応するための制裁として使用者に許された措置なのである。したがつて労働協約において労働者の懲戒に関する事由が定められている場合、その規定は本来右のような趣旨を有するものと解すべきであり、その適用については懲戒の本質なり目的から来る客観的な限界が存するものと考えられるのであつて、このことは、本件における労働協約第三八条第一一号の解釈適用についても異なるところはないものというべきである。

(三)、以上(一)、および(二)、において判示したところを考え合せると、申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇に適用された労働協約第三八条第一一号に「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき。」というのは、広く社会一般から不名誉な行為と評価されるあらゆる行為を意味するものと解すべきではなく、それが被申請人の従業員に対する懲戒の事由を定めた規定であることに内在する制約を考慮の中に入れてその範囲を画することが要請されるのである。しかも右にいわゆる「会社の体面を汚した」ということも、被申請人の主観によつてのみ判断されるべき事柄ではなく、客観的にそうみられる場合でなければならないのは、もとより当然のことであるばかりでなく、前出(一)、において説示したところにかんがみ、前示(1)、ないし(3)、のような事態の生じた場合、または少くともこれに準ずるような場合に限つて被申請人の体面が汚されたものと認めるべきものである。

なお、叙上は、もつぱら被申請人の申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇について適用された労働協約第三八条第一一号の解釈について論じたのであるが、この規定とともに右解雇の根拠規定とされたことについて当事者間に争いのない被申請人の就業規則第九七条第一一号の規定は、右労働協約の規定と全くその文言を同じくするものであつて、前掲甲第二号証と真正にできたことに争いのない甲第三号証とによると、右の労働協約第三八条と就業規則第九七条とは、その他の規定部分に関する措辞においても少しも異なるところがないことが認められるのであつて、前記労働協約の規定の解釈について上来判示したところは、そのまま右就業規則の解釈にもあてはまるものというべきである。

ところで、申請人らが昭和三二年七月八日「砂川基地測量反対集会」に参加した際、刑事特別法第二条に違反する行為をしたため逮捕起訴され、そのことが当時新聞、ラジオ、テレビにより広く報道されたことは、さきに判示したとおりであるが申請人らのかような行為によつて被申請人の経営秩序が乱されたとか、企業の生産性が阻害されたとか、その他労使間の信頼関係が破壊されたとかいう客観的な事情の生じたことを認めるに足りる疎明は全く存しないし、まして被申請人が主観的にどう判断したかはともかくとして、申請人らの右行為が被申請人の名誉または信用を毀損し、その他被申請人に対し民事上の損害を加え、ないしは右に準ずるような事態を被申請人にもたらしたことについても、なんら疎明されるところがないのである。してみると申請人らが前記行為につき、たとえ刑事特別法第二条違反の刑責を負うことを免れえないものであるとしても、申請人らに前記労働協約第三八条、および就業規則第九七条の各第一一号にかかげられている懲戒の事由にあたる事実はなかつたものというべきであり、被申請人が昭和三二年二月二一日申請人らに対してした懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示は、前記懲戒規定の適用を誤つたものとして無効であるといわなければならない。なお、被申請人は、昭和三三年七月一八日の本件口頭弁論期日において、申請人坂田、同高野に対し予備的に諭旨解雇の意思表示をしたけれども、もとよりその意思表示も同様の理由により無効とみるべきである。

したがつて、申請人らと被申請人との間の雇傭契約は依然として存続し、申請人らはこの契約にもとずく被申請人の従業員たる地位を失つていないことについては、疎明がなされたことになるのである。

そこで次に、申請人らが被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮処分によつて保全する必要性があるかどうかについて判断する。

申請人坂田が被申請人から懲戒解雇の意思表示を受けた後も、組合の執行委員として組合業務に専従し、毎月組合から、同人が被申請人より支払を受けるはずの給料相当額の金員のほかに執行委員としての活動費であるか、執行委員手当であるかについては当事者間に争いがあるけれども、いずれにせよ金四千円を支給されていることは、当事者間に争いがないのみならず、真正にできたことについて争いのない甲第一一号証の八によると、組合から被申請人に対して申請人らに対する懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示の撤回を要求して、組合と被申請人との間に団体交渉が行われている過程において、被申請人側の交渉委員より組合に対し申請人らが解雇前勤務していた事業所に被申請人の許可なく出入することは遠慮してもらいたいが、さればといつて被申請人において申請人らの事業所への出入を阻止するため、当面法的措置をとるようなことは考えていない旨が言明されたことが認められ、更に本件弁論の全趣旨によると、被申請人の事業所において申請人坂田が通常の組合活動を行うについては特段の支障はないことがうかゞわれるところ、そのほかに仮処分によつて申請人坂田が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を保全しなければならないほどの必要があることについては、なんらの疎明もない。

要するに申請人坂田については、仮処分の必要性について疎明がないものというべく、この点に関する疎明に代わる保証をたてさせて本件のような仮処分をすることも相当でないから、申請人坂田の本件仮処分申請は却下すべきである。

申請人高野、同菅野が、ともに被申請人から懲戒解雇、ないしは諭旨解雇の意思表示を受けた後、組合の犠牲者救援規程により、毎月組合から、解雇前三カ月間の賃金の一カ月平均額に相当する金員の支払を受けていることは当事者間に争いがないところであり、被申請人が申請人らの解雇後における被申請人の事業所への出入について、前述のとおり団体交渉において示した態度、および本訴において被申請人が申請人高野、同菅野の組合活動のためにする旧職場への出入に対する処置について主張するところにかんがみるときは、この両名についても、本件のような仮処分の必要性はないのではないかと一応はいえそうである。けれども真正にできたことに争いがない甲第四号証によつてその内容を知ることのできる組合の犠牲者救援規程の全体を通覧するときは、組合員が被申請人によつて解雇された場合にこの規程にもとずいて当該組合員に賃金の平均額を支給する方法による救援は、当該本人が被申請人から不当に被解雇者として取扱われることによる生活の困難を緩和するための応急措置であつて、その解雇が無効とされたような場合には、早速打切られるべき性質のものであると解せられる。もつとも右規程の第五条によれば、組合員が被申請人から受けた懲戒解雇、または諭旨解雇の効力を裁判所において争う場合においては前記救援はその係争期間中、すなわち当該解雇の効力の有無が確定されるに至るまで継続されることになつていることが認められる。しかしながらそもそも前記規程による組合の組合員に対する救援が上述のように臨時的、応急的な性質のものであることにかんがみるときは、仮処分についての審理においてであるとはいえ、現に被申請人の従業員に対する懲戒解雇、または諭旨解雇が無効であつて、当該従業員が被申請人に対して解雇の時以後においても賃金請求権その他の雇傭契約にもとずく権利を有するものと認められる場合において、前掲第五条の規定により組合の救援が引きつづき与えられるであろうとの理由を構えて本件のようないわゆる地位保全の仮処分についての必要性がないとするのは、そもそも本末転倒の議論であつて、とうてい容認することができないのである。

そうだとすれば申請人高野、同菅野の両名については、本件仮処分の必要性が存するものというべきであり、したがつて右両名の本件仮処分申請は認容すべきである。

よつて、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、および第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 石田穰一)

(別紙)

新聞記事一覧表

1 (発行年月日)32・9・22(新聞名)読売新聞夕刊

(見出し)砂川闘争、指導者を検挙、学生など二十三名、測量反対で基地侵入(記事)当局では六月二十七日の予備測量、七月八日の本測量のさいのデモ隊の基地なだれ込みの状況を検討した結果、七月八日の本測量のときはデモ隊が警察側の警告を無視、測量隊、警官隊に投石するなど悪質な暴力行為もあつたとして捜査を“本測量妨害”にしぼり、リーダー格や悪質なものを割出し裏付け捜査を行つた結果二十六名に対し逮捕令状を請求、こんどの一斉検挙となつたもの。この本測量のさいには学生、労組員約二百五十名は幅約五十メートルにわたりサクをこわして基地内に入り、バリケードをはさんで警官隊と対立、投石などで警官数名が軽傷を負つたが、警察側はふたたび流血の惨事をひきおこすような事態をさけるため現場での検挙を見おくつた。しかし刑特法第二条の「合衆国軍隊の施設または区域に入り退去しないものは一年以下の懲役または二千円以下の罰金もしくは科料」の規定にふれることは明かであり、このまま黙認したのでは今後の“大衆犯罪”の取締りにも悪影響を与えるとして基地反対闘争に対して初の刑事特別法を適用することになつた。しかし当局では事件の背後に“政治性”もあり、また侵入者全員の捜査も困難なので、デモ隊に指導的な役割を果したもの暴力行為のあつたものを割出し警察庁、検察庁とも慎重打合せ一斉検挙の方針がきまつたもの。検挙者氏名……△日本鋼管川崎製鉄工場労組執行委員坂田茂(二七)(川崎市上小田中三〇〇)……△同労組員菅野勝之(二五)(横浜市鶴見区市場町一二一五)……△同高野保太郎(三一)(川崎市南小田町二の五)……

(見出し)証拠十四点を押収、鋼管川鉄労組で(記事)(川崎発)川崎市鋼管通三の二五日本鋼管川崎製鉄所労組事務所では同朝六時三十分警視庁から警官隊約三十人によつて同事務所を暴力行為等処罰に関する法律違反、刑事特別法違反容疑で家宅捜査、作業衣一、作業帽四、日誌など十四点を押収され、同労組委員坂田茂(同市上小田中三〇〇)ら組合員五人が逮捕された。

(見出し)悪質なものを選び出す、警視庁の見解(記事)警視庁では砂川事件の一せい検挙について野田公安部長談の形でつぎのような見解を発表した。「今回の捜査は二百数十名の基地内に侵入したものから悪質なものを選び出すこと、および事件の性質上、警察庁、検察庁との打合せなどに手間がかかり検挙するまでに相当の日数がかかつた。当日話合いで解決しているはずだということは絶対にない。」

2 (発行年月日)32・9・22(新聞名)東京新聞夕刊

(見出し)けさ二十三名逮捕、砂川事件で二十六名に令状、学生九、労組員十四、サク破つて基地侵入、約三百名の悪質者、中心勢力の鋼管川崎、日共党員七、八十名の過激派(記事)当局が日本鋼管川崎労組事務所を捜索した理由は、同労組が砂川基地測量反対闘争の中心勢力をなしたとみているためである。同労組は組合員一万三千五百名、うち日共党員七、八十名とみられ全鋼連翼下では過激行動派として通つている。去る七月八日の砂川闘争では全鋼連本部の指令で、同労組幹部クラス十一名が支援団体として参加、全学連、都労連などと共に反対闘争の先端を切つた。………

3 (発行年月日)32・9・23(新聞名)読売新聞朝刊京浜版

(見出し)鋼管川鉄から八名検挙(記事)去る七月八日の砂川事件に関する暴力行為等取締法、刑事特別法第二条違反容疑者の一斉手入れで、日本鋼管川崎製鉄所労組では、二十二日未明、組合事務所の家宅捜索を受けるとともに夕刻までには動員した十一人のうち八人までが警視庁公安二課員に逮捕され、残る三人も逮捕されるのではないかと見られている。………

4 (発行年月日)32・10・3(新聞名)毎日新聞朝刊

(見出し)指導者七名を起訴、砂川逮捕、刑事特別法立入り違反で(記事)去る七月都下砂川町の米軍立川基地測量の際、支援労組、全学連の一部がサクを壊して侵入した事件につき、東京地検公安部では去月二十二日逮捕した二十五人(処分保留のまま釈放)を調べていたが、二日最高検、東京高検と協議した結果、うち七人を刑事特別法第二条(米軍区域侵入)違反で起訴することに決定した。残り十八人は三日改めて検討するが、大部分は起訴猶予となる模様である。起訴状によると測量に反対する基地拡張反対同盟員とこれを支援する労組員、学生団体員など千余人が飛行場北側境界サク外に集り、気勢をあげた。一部のものは滑走路北端の境界サクを数十メートルに渡り破壊した。被告らはこの集団に参加していたが、ほかの参加者三百人とともに立川飛行場に立入つたもの。起訴者次の通り。△日本鋼管川崎製鉄所工員坂田茂(二八)……△日本鋼管川崎製鉄所工員高野保太郎(三二)……△同菅野勝之(二五)……

(見出し)東京地検の話(記事)当日指導的立場にあつたもの積極的だつたものに重点をおいて起訴した。

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